ノカノワ

日本淡水魚の約40%が絶滅危惧種ってほんと?

日本に棲む汽水・淡水魚のおよそ40%が、環境省レッドリストで希少種に指定されています。
この割合は、哺乳類、鳥類等全分類群の中で最も高い割合です。

メダカやタナゴ類、ドジョウなど、かつては身近だった魚たちも例外ではありません。

日本固有の淡水魚の現状と類型

とりわけ淡水魚は、基本的に淡水域を通じて移動分散するため、長い地質年代を通じて、水系の連結や分断など様々な要因により地域的な魚類相の違いが生じ、また種分化を通して地域ごとの固有種が生み出されてきました。

また、その多くは人間の活動によって形成、管理・維持されてきた「二次的自然」を主な生息環境とする淡水魚です。

キーワードは「二次的自然」

里山の水田、用水路、ため池――これらは人の手が加わってできた「二次的自然」と呼ばれる場所です。昔ながらの田植え・稲刈りのリズムや土水路のくねり、雑草が残る土手などが、魚たちの産卵床や隠れ家、エサ場となってきました。

これらの「二次的自然」を主な生息環境とする淡水魚を保全することは、淡水魚を含む多様な生きものが生息、生育、繁殖し、それらの生きもののつながりが保たれた、多様で豊かな環境が保全され、生態系サービスも保全されるという効果もあります。

なぜ魚の居場所が減ったのか

[要因] [起こったこと] [魚への影響]
圃場整備 水路をコンクリート三面張りに 区画を大型化 流れが単調になり卵が付かない
治水・河川改修 直線化・護岸化・ポンプ排水 川と田んぼの行き来が遮断
農薬・除草剤 水生昆虫が減少 エサ不足・稚魚の致死率上昇
外来種導入 バス・ブルーギルなどが拡大 捕食・競合による在来種減少

二次的自然に棲む72 種をくらべてみると―環境省が示した“4つの類型”

環境省は「二次的自然を主な生息環境とする淡水魚保全のための提言」の中で、第4次レッドリストに掲載された種のうち、二次的自然を主な生息環境とする淡水魚72種をその特徴と類型化から次の4つの類型に分けました。

【第1類型について】(アユモドキ、オオガタスジシマドジョウ、ニゴロブナ等)

産卵や成長に伴い、河川や湖沼、水路、水田等異なる生息環境を移動して利用する種

【第2類型について】(ミヤコタナゴ、ゼニタナゴ、ニッポンバラタナゴ等)

河川や水路・ため池を主な生息環境とし、産卵に二枚貝を利用する種

【第3類型について】(カワバタモロコ、シナイモツゴ、ミナミメダカ、キタノメダカ等)

水田・水路やため池を主な生息環境とし、水田・水路等で水草等に産卵する種

【第4類型について】(ホトケドジョウ、ハリヨ等)

年間を通じて湧水が豊富な湿地・湧水池に依存する種

二次的自然を守る

二次的自然を主な生息環境とする淡水魚は上記のように農業と切っても切れない関係があることがわかります。

ケーススタディ① 佐賀平野に残る昔ながらの田園

対象種:スジシマドジョウ小型種九州型

スジシマドジョウは生息地の圃場整備等が進み、個体数は急減傾向です。
本種の生息域は限られ、絶滅の危険性が高いとされることから、絶滅危惧ⅠB類に指定されています。

佐賀市北部・鍋島町蛎久地区は、戦後の圃場整備が限定的で、水田と水路がいまも直接つながる「昔ながらの田園」が残存します。

折れ曲がった土護岸や季節的な水位変動が 疑似的な氾濫原 として働き、希少魚が水田⇄用水路を自由に行き来できます。

圃場整備をしても、土水路の一部を残す・魚道を付けるなど「行き来の抜け道」を作れば、ドジョウ類の産卵・成長サイクルは維持できるのです。

ケーススタディ② 琵琶湖と「魚のゆりかご水田」

対象種:ニゴロブナ

ニゴロブナは、コイ科フナ属に属する固有種であり、古くから琵琶湖の伝統的特産品である「ふなずし」の原料として利用されており、琵琶湖における漁業においては特に重要な魚種です。

1980 年代までは漁獲量 200 t 前後を誇ったが、1990 年代半ばに 18 t 前後まで急落。現在は おおむね 50 t 前後 まで持ち直しています。

どうして激減した?

湖岸堤の延伸・圃場整備の加速(1970 – 90 年代) 田んぼと琵琶湖をつなぐ水路が分断 産卵のための遡上ルートが喪失したことが理由の1つです。

「魚のゆりかご水田プロジェクト」

ニゴロブナの生息場所の再生に関わる事業で代表的なものとして、「魚のゆりかご水田プロジェクト」があります。このプロジェクトは滋賀県が実施する「みずすまし構想事業」の一環として行われています。

「みずすまし構想」とは、農業の生産性を維持しながら、環境と調和した農業をめざし、県民の主体的な参加を基本に、農村地域の水質や生態系・農村景観を保全する取り組みです。

[仕組み] [ポイント]
魚道を設置 田植え前後に魚道を開け、琵琶湖からニゴロブナやタナゴが自由に出入りできる用水路に改修
農薬・除草剤の使用タイミングを調整 稚魚が田んぼにいる時期を避けて散布
直接支払+ブランド化 取組田には国支援 4,400 円/10 a を交付。収穫米は 「魚のゆりかご水田米」 として販売し、付加価値を創出。

このセットメニューに外来魚の駆除や親魚の放流を組み合わせた結果、ニゴロブナ漁獲量は 底値から 2 – 3 倍に回復。

私たちにできる3つのこと

01ゆりかご水田米や環境こだわり米を選ぶ

消費が農家のチャレンジを後押し

02外来魚を“持ち帰り or 適切処理”
琵琶湖ではリリース禁止!

03田んぼと水路をつなぐ取り組みを拡散・応援
地域の農水路でも同じ仕組みが応用できます。

ニゴロブナの事例は、「湖と農地を切り離さないインフラ+ルール+地域ブランドづくり」で、絶滅危惧からの回復が可能だと教えてくれます。

農家と淡水魚のつながる輪

佐賀や琵琶湖の事例が示すように、コンクリートをすべて剥がさなくても――魚道を付ける、水を張る期間を延ばす、といった小さな工夫の積み上げで「魚が帰ってくる田んぼ」は実現できます。

農業と魚の共生は、地域の食文化や観光資源にも直結します。淡水魚を守るために私も気をつけたいと思います。

 

【参考】日本魚類学会/環境省/農林水産省/WWFジャパン/滋賀県庁/生物多様性センター