ノカノワ

ふなずしのフナが大ピンチ!

ふなずしのフナ「ニゴロブナ」

ニゴロブナとは?

ニゴロブナは、コイ科フナ属に属する固有種です。

みなさんは滋賀県琵琶湖の伝統的特産品である「ふなずし」を知っていますか?

ふなずしは千年以上前から受け継がれてきた発酵食品。
「なれずし」という古いタイプのすし(魚を塩と米で長期発酵させる保存食)の代表格で、日本のすし文化の“原点”とも言われます。

1998年には滋賀県の無形民俗文化財の「滋賀の食文化財」として選択されています。

ニゴロブナはふなずしの原料として利用されており、琵琶湖における漁業においては特に重要な魚種なんです。


2017年9月琵琶湖博物館で撮影

「ふなずしが食べられなくなるかも?」

琵琶湖の伝統食を支えてきたニゴロブナが、今、かつてない危機に直面しています。

実は、ふなずしの主役であるニゴロブナ が 1980 年代を境に姿を消し始め、ついには環境省レッドリスト絶滅危惧 ⅠB 類 に指定されるほど追い込まれているんです。

琵琶湖に生息するニゴロブナは、環境省によると、平成元年ごろには琵琶湖におけるニゴロブナを含むフナ類の漁獲量は200トン程度ありましたが、一時18トン前後まで落ち込みました。

なんでそんなにピンチなの?

ニゴロブナが減った原因としては、ニゴロブナを含むフナ類の漁獲量が1986年より連続的に減少していることから、1986年以前にその主な原因が発生し今なお継続していると考えられます。

それを踏まえ、ニゴロブナの主な減少原因を2つあげます。

1つ目に開発事業にともなう湖岸堤の建設と琵琶湖周辺の圃場整備事業です。

ニゴロブナは水田やヨシ帯の浅く静かな水域に産卵します。

開発事業により、水田と琵琶湖との間の移動手経路が失われ在来魚が遡上できなくなったこと、ヨシ帯(イネ科の多年草で、琵琶湖の湖岸や河口に広く分布)の減少がニゴロブナの減少に影響を与えていると推測されます。

滋賀県が公表している圃場整備の面積推移から、1978年頃は圃場整備が最も進行した時期だと読み取れます。その後も実施面積は1991年まで右肩上がりに伸びていき、それ以降はほぼ横ばいになっています。

2つ目に外来種であるオオクチバス・ブルーギル等の生息数の増加が挙げられます。

これらの外来種は肉食魚で、ニゴロブナの稚魚を捕食してしまいます。

滋賀県曰く、オオクチバスは「1974年(昭和49年)に彦根市沿岸で初めて確認され、1979年(昭和54年)には琵琶湖全域に拡大し、1983年(昭和58年)頃に大繁殖」、ブルーギルは「琵琶湖では、1965年(昭和40年)~1975年(昭和50年)にかけて散見され始め、1993年(平成5年)に南湖を中心に大繁殖」。「その後、生息域を拡大させ、現在では琵琶湖全域に生息」しているそうです。

このような状況を受けて、ニゴロブナは数を減少させたんですね。

しかし、2011年以降には40 トン前後まで回復してきました。

2019 (令和元) 36t
2020 (令和2) 40t
2021 (令和3) 48t
2022 (令和4) 40t

滋賀県まとめの統計表から引用 https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5503151.pdf(アクセス日2025年6月12日)

では何故ニゴロブナは、一時的に個体数が減ったにも関わらず、近年では回復傾向にあるのでしょうか?

なぜ近年では回復傾向にあるの?

1980 年代を境に姿を消し始めてから約40年。
近年の琵琶湖では、ニゴロブナを含むフナ類の漁獲量が40トン台まで持ち直す年が増えてきました。

いまだピーク時(200 t 前後)の 4分の1 程度とはいえ、「回復傾向」は確かなものです。
そのカギを握るのが 〈ルール整備〉〈産卵場の復活〉〈外来魚問題〉 の3点です。

滋賀県の法的整備

【“釣っても戻させない”徹底したルール整備】

滋賀県では、独自の法的整備がされています。

施策 内容 期待される効果
琵琶湖レジャー利用の適正化条例 ブラックバス&ブルーギルの再放流を禁止 稚魚を食べる外来魚の再拡散を防止
滋賀県漁業調整規則 外来魚の密放流禁止 “放す→増える” 連鎖の根絶
ふるさと滋賀の野生生物との共存条例 国の「外来生物法」で網がかからない種類まで独自指定し放流・飼育を制限 次の“侵略者”を湖に入れない

これらの条例や規則は、主に外来種に関わるものです。

この他にも外来魚は、国が制定した「特定外来生物による生態系等に係る被害防止に関する法律(以下、外来生物法とする)」により規制されています。

規制内容としては、「滋賀県漁業調整規則」では外来魚の密放流が禁止されている。これはこの規則が制定された後に国が制定した「外来生物法」でも禁止されている。そして、「琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例」では外来魚の再放流が禁止されている。

ヨシ帯の再生がカギを握るニゴロブナの未来

ニゴロブナの命をつなぐには、「ヨシ(葦)」の存在が欠かせません。

ヨシとはイネ科の多年草で、琵琶湖の湖岸や河口に広く分布しています。

ニゴロブナは、ヨシの根際や茎に卵を産みつけ、稚魚はヨシの間で外敵から身を守りながら成長。
また、水中の微生物や付着藻類も豊富です。

あの琵琶湖沿岸に揺れる草むらは、単なる景観ではなく、“生き物のゆりかご” なのです。

しかし琵琶湖では、湖岸開発・護岸工事コンクリート護岸によりヨシが生えにくくなりました。

【再生に向けた取り組み「滋賀県琵琶湖のヨシ群落の保全に関する条例」】

滋賀県琵琶湖のヨシ群落の保全に関する条例は1992年3月30日に公布し、同年7月1日から施行しました。
この条例は、琵琶湖の象徴ともいえるヨシ群落を保全・再生するために制定された条例です。

ヨシ群落を積極的に保全し、その多様な機能を発揮させることにより、琵琶湖の環境保全を図り、県民の生活環境の向上に寄与することを目的としています。

例えば、ヨシ群落保全区域では、工作物の新築などの行為が制限されます。(事前の申請や届出が必要)

さまざまな取り組みを経て、2013年の琵琶湖のヨシ群落面積は、昭和28年程度に回復しています。260.8ha→255.8ha

琵琶湖のヨシ群落面積は回復傾向です。

この条例は景観や水質浄化に加え、ニゴロブナをはじめとした琵琶湖の生き物たちの命をつなぐ拠点としての「ヨシ帯」を行政・地域・県民が一体となって守っていこうという姿勢を示す枠組みです。

つまり、“ニゴロブナの未来”を守る条例でもあるのです。

田んぼが再び“ゆりかご”に「魚のゆりかご水田プロジェクト」

ニゴロブナの生息場所の再生に関わる事業で代表的なものとして、「魚のゆりかご水田プロジェクト」があります。

琵琶湖と田んぼの間を魚類が自由に行き来し、産卵場や稚魚の成育場として利用されていた田んぼは「魚のゆりかご」といわれます。

圃場整備などにより「ゆりかご」を失ったニゴロブナなどの在来魚は、近年問題となっている外来魚などの影響も合わさって、その数を減らしています。

魚のゆりかご水田プロジェクトは、琵琶湖から魚類が遡上できる排水路にすることにより、田んぼを昔ながらの「魚のゆりかご」にし、生態系の再生を目指しているプロジェクトです。

【取り組み】

・魚が田んぼで産卵出来るように魚道を設置

・田植え時期を揃え、除草剤をまく場合は時期や回数などに配慮

・条件を満たした農家には 「魚のゆりかご水田米」ブランド化で販路支援

【効果】

・水田に遡上したニゴロブナが安全に産卵

・稚魚は雑草や落ち穂を食べながら育ち、湖に戻る頃には外来魚に食われにくいサイズへ成長

・消費者はお米を買うだけで保全に貢献できる

“おいしいお米を食べる=稚魚を守る” という循環が起こる素敵なプロジェクトです。

外来魚を“出さない・増やさない・持ち帰る”

滋賀県は外来魚対策も力を入れて取り組んでいます。

取り組み ざっくり解説 最近の数字等
回収ボックス&いけす 湖岸61基+いけす25基(2023年時点)で釣れた外来魚を無料回収 → 魚粉や堆肥に再利用 6.3トン(2022年)の回収
有害外来魚ゼロ作戦 県+漁協が刺網・電気ショッカーボートで親魚を集中捕獲 年間200 t 前後 を直接駆除
外来魚駆除釣り大会 企業や自治体が開催。 親子連れ100人で48 kg 駆除の例も

“楽しみながら保全” が地域行事に

滋賀県では2002年から外来魚駆除の取り組みを強化しており、外来魚の駆除量は2007年には543トンありましたが、2023年は75トン程度となっています。

外来魚生息量は、これまでの継続的な駆除対策により、2007年当初には2,405トンであったものが、2023年当初370トンと推定されており、概ね順調に減少しています。

外来魚を美味しく食べよう!

ブラックバスはスズキ系の白身魚で、調理次第では美味しく食べることのできる魚であり、滋賀県にある琵琶湖博物館では、ブラックバスの料理を館内のレストランにて提供しています。

湖の幸の天丼
びわ湖の固有種ビワマスと、外来種のブラックバスを使った天丼です。
おいしく食べながら、びわ湖の魚の問題について考えてみてください。

琵琶湖博物館HP「レストラン にほのうみ」https://www.biwahaku.jp/guide/restaurant.html(アクセス日2025年6月12日)

こうした情報や詳しい調理方法などを広めることで、多くの人が気軽に外来魚を食べ、結果的に川を守ることが出来るのではないかと思います。

おわりに

ニゴロブナを減少させないためには私たち一人ひとりの選択が欠かせません。

ゆりかご水田米を食べて農家を応援する
釣り場で外来魚をリリースしない
親子で駆除イベントに参加してみる

こうした小さなアクションが、未来へつなぐ力になります。
ふなずしが“ただの珍味”で終わらないように。

みんなで自然と生き物について考えていきましょう!

参考:環境省HP、滋賀県HP、寺林暁良(2010) 「魚のゆりかご水田」による環境再生・地域再生 -JAグリーン近江と栗見出在家町-,『農中総研 調査と情報』,1(16),p16-17、日本経済新琵琶湖の外来魚、回収箱で半減 ブルーギルなど「処理が楽」https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG16H2B_W5A310C1CC0000/ (アクセス日2025年6月12日)、 JAグリーン近江「魚の水田ゆりかご水田米」http://www.jagreenohmi.jas.or.jp/about/toresa07.html(アクセス日2025年6月12日)