なぜ日本は“農薬大国”と呼ばれるのか?知っておきたい現実と、もう一つの選択肢
「日本の農業は農薬に頼りすぎている」
「日本は農薬大国だ」
そんな言葉を耳にしたことはありませんか?
世界的に見ても日本は、農薬使用量が多い国の一つです。
なぜそうなったのか?
そして、それに疑問を感じる人たちが、今どんな選択をしているのか?
今回は、日本の農薬事情と、農薬を使わない栽培というもうひとつの農のあり方について、わかりやすく解説します。
“農薬大国”と呼ばれる理由とは?
FAO(国連食糧農業機関)の統計によると、日本の農薬使用量は耕地1ヘクタールあたり約11〜12kg(有効成分換算)。これはEU諸国の平均(約3〜4kg/ha)の3倍前後にあたります。韓国や中国と同水準ではあるものの、OECD諸国の中でも日本は上位に位置します。
また、単に量が多いだけでなく、以下のような特徴が重なって「農薬大国」と言われています。
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使用頻度の高さ:果物や野菜などでは、年に10回以上、作物によっては20回以上の散布が行われるケースもあり、世界的にも稀なレベルの多さです。
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作物の偏り:農薬の使用が特に多い果樹・葉物野菜への依存度が高く、使用の濃度と頻度が上がりやすい構造です。
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禁止農薬の使用継続:EUなどで禁止された農薬が、日本では現在も使用可能であるケースがあり、国際的に見て規制が緩いという印象を与えています。
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高密度な農業構造:山が多く農地が限られる日本では、狭い面積に集約的に作物を育てるため、1ヘクタールあたりの農薬投入量が増えやすい傾向があります。
このように、単なる使用量だけでなく、使い方・規制の在り方・農業構造など、さまざまな要素が重なって“農薬大国”と呼ばれるに至っているのです。
なぜ日本では農薬が多用されるのか?
農薬使用が多くなる背景には、日本ならではの事情もあります。
- 高温多湿な気候:カビや病害虫が発生しやすく、防除の必要性が高い
- 見た目重視の市場:形や色、虫食いのない見た目が求められる
- 安定供給のプレッシャー:価格と収量の確保のため、予防的散布が行われる
特に「見た目」への期待は大きく、少しでも傷や虫の跡があると市場で評価が下がるため、農薬による防除は“仕方ないもの”として受け入れられてきました。
世界との違い:EUと日本の農薬基準比較
同じ農薬でも、EUでは禁止されているのに、日本では使用されているという例があります。
たとえばネオニコチノイド系農薬は、EUではミツバチへの影響を懸念して2018年に屋外使用を原則禁止しましたが、日本では現在も使用可能です(2025年時点)。
さらに、ある殺菌剤(プロピコナゾール)における残留基準値は、EUで0.01mg/kg、日本では3.0mg/kgと、300倍もの開きがあります。
これは、「リスクをどう評価するか」「どこまでを許容するか」という国の姿勢の違いとも言えます。
また、輸出向けの農産物では、相手国の残留農薬基準に合わせる必要があり、基準の違いが問題になるケースも出てきています。
消費者の意識の変化と不信感
「農薬は国が安全と認めたものだから問題ない」
たしかにそう言われれば安心に聞こえます。
しかし、近年では「本当にそれで大丈夫なのか?」と感じる人が増えてきました。
農林水産省や消費者団体の調査でも、残留農薬は食の安全に関する関心項目のひとつとして常に上位に挙げられており、不安を抱く人は少なくありません。
- 子どもの健康を気にする家庭
- 長期的なリスクに不安を感じる人
- 知らない成分が体に入ることへの抵抗感
SNSやドキュメンタリー、海外との比較などを通じて、“選ぶ側”の意識が変わりつつあるのです。
農薬を使わないというもう一つの選択肢
ここで注意したいのは、「有機農業=農薬を一切使わない」ではないという点です。
有機JASでは化学合成農薬は使えませんが、天然由来の農薬(銅剤や石灰硫黄合剤など)は使用が認められています。つまり「有機=無農薬」ではないのです。
もっとも、有機農業の中にも農薬を一切使わずに実践している農家さんもいます。有機認証を受けながら、あえて資材を使わない選択をしているケースもあります。
そして、自然農法や自然栽培などを実践する農家さんもいます。
もちろん手間も時間もかかりますが、そこには「リスクを避けたい」という思いと同時に、自然と共に生きるという思いがあります。
ただその数はまだまだ少なく、正確な戸数の統計は存在しません。民間の推計では、全国で数万戸程度にとどまると見られています。
ノカノワでは、そうした農薬を使わない農家さんをご紹介していきます。
まとめ:何を選ぶかは、わたしたち次第
日本が“農薬大国”と呼ばれる背景には、気候や市場の構造、そして歴史的な事情があります。
事実、農薬は戦後の食糧不足を支え、日本を成長させてきた大きな力でもあります。
ただ、その一方で「このままでいいのか」と立ち止まり、農薬を使わない農業を選ぶ人が増えてきました。
農薬を完全に悪と決めつけるのではなく、その役割とリスクの両方を理解した上で、これから自分たちがどんな食を選び、どんな農を未来に残したいのかを考えることが大切です。
ノカノワは、そのための情報を届け、選択肢を広げていく場でありたいと考えています。
