外来生物と農業|自然と共生するために知っておきたいこと
「安全な食べもの」や「環境に配慮した農法」への関心が高まるなか、農薬や化学肥料に頼らずに作物を育てる取り組みが注目されています。
一方で、あまり語られない課題があります。それが 外来生物と農業の関係 です。
ここでは、身近な事例を交えながら、外来生物が農業に与える影響と、私たちにできることを整理して解説します。
外来生物とは?
外来生物は、本来その地域にいなかった生きものが、人の移動・物流・飼養・観賞などを通じて持ち込まれ、定着したものを指します。
たとえば、釣りでおなじみのブラックバスや、道ばたでよく見かけるセイヨウタンポポも、水辺のアメリカザリガニも、すべて外来生物です。
このように身近にあるものでも、“実は外来生物だった”というケースは意外と多くあります。
それらが知らず知らずのうちに、生態系や農業へ影響を及ぼすことがあります。
特定外来生物とは
外来生物の中でも、生態系や農業、人の健康に深刻な影響を与えるおそれがある種は、特定外来生物として「外来生物法」により指定されています。
特定外来生物は、許可なく飼う・運ぶ・野外に放つことが禁止されており、違反すると罰則の対象になります。
最新の指定種や規制内容は、環境省の「特定外来生物等一覧」で確認できます。
なぜ農業に関係があるのか
農業は作物だけで成り立つものではありません。
土壌の微生物、水田や畑に暮らす小動物、受粉を担う昆虫、雑草を含む植生──
これらがつながり合うことで、栽培の土台が形づくられます。
そこに外来生物が加わると、次のような影響が現れます。
害虫と益虫のバランスが崩れる
畑の中には、作物だけでなくさまざまな生きものが関わり合って暮らしています。たとえば、アブラムシを食べてくれる在来のテントウムシや、害虫の卵を狙う寄生バチなど、作物にとって頼もしい「益虫」もその一部です。
しかし、アメリカシロヒトリやツマジロクサヨトウといった外来の蛾の仲間は、そうした在来の天敵(捕食者や寄生者)が少ないため、短期間で一気に数を増やしてしまうことがあります。これらの幼虫は葉を食べ、ひどいときには樹木を丸裸にするほどの被害を出すこともあります。
また、本来は温室内でのアブラムシ対策として導入された外来種のフタモンテントウが、近年では屋外でも定着し始めています。このテントウムシは、在来種のテントウムシの卵や幼虫まで食べてしまうことが確認されており、天敵としての多様性が損なわれる懸念もあります。
こうしたバランスの崩れによって、自然に害虫を抑える力が弱まり、人の見回りや防除の手間が増えたり、収量が安定しにくくなったりするといった影響が出る可能性があります。
水田や畑を支える生きものたちへの影響
水田には、作物だけでなく多くの生きものが関わっています。
たとえば、ドジョウや在来のタニシは、水の中の泥をかき混ぜることで水を澄ませ、稲の根が伸びやすい環境を整えるはたらきをしています。
一方で、外来種のスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)は、田植え直後のやわらかい苗を集中的に食べてしまうため、せっかく植えた苗が抜け落ちてしまう被害が出ます。
こうした外来種の影響で、本来の生態バランスが崩れると、苗がうまく育たず、補植や駆除といった作業が増え、農家の負担が大きくなります。
水路や水環境への影響
水路に繁茂する外来水草も、農業にとっては大きな問題です。
外来種の水草が用水路や排水路にびっしりと生えると、水の流れが悪くなり、大雨のときに排水が間に合わず、田畑が冠水するおそれがあります。
そのため、草刈りや泥の除去作業が頻繁に必要となり、人手や費用がかさむ要因になります。
外来哺乳類による農作物への被害
アライグマやハクビシン、ヌートリアといった外来の哺乳類も、農作物に被害を与える存在です。
作物を食い荒らすだけでなく、防護柵やビニールを破ったり、ふん尿によって衛生面の問題を引き起こしたりすることもあります。
被害が続くと、作付けや栽培方法、防護策の見直しが必要となり、コストや手間が増す原因になります。
私たちにできること
外来生物の影響を減らすには、一人ひとりの小さな行動が大切です。
日々の暮らしや畑の管理の中で、次のような取り組みを続けることが、在来の生きものが暮らせる環境を守る力になります。
- 持ち込まない・広げない:飼育・観賞の個体や外来水草を放さない。釣り具や長靴は洗ってから移動する。
- 知って、知らせる:地域で問題の外来種を把握し、見つけたら自治体の指示に従う。
- 畑と水路の管理を工夫:単調になりすぎない畦・水際の管理で、在来種のすみかを残す。
- 地域で連携:学校・自治会・JA・漁協などと情報共有し、見回りを続ける。
まとめ
自然と向き合う農業は、畑の中だけで完結しません。
草も、虫も、魚も、鳥も、そして私たち人間も。すべてが同じ“環(わ)”の中で生きています。
外来生物の問題は、農業にとどまらず私たちの日常にも直結しています。
身近な自然との関わりを自分ごととして捉えること――
それこそが、未来の農業と自然を守る第一歩です。
外来生物に関する最新情報や規制内容は、環境省の「日本の外来種対策」で確認できます。
