農薬・化学肥料に頼らない代表的な農法5選とその特徴
農薬や化学肥料を使わず、自然の力を活かして作物を育てる栽培方法には、さまざまな呼び方や考え方、実践方法があります。
今回は、その中でも代表的な農法である「自然栽培」「自然農法」「自然農」「協生農法」「菌ちゃん農法」を取り上げ、それぞれの特徴や違い、そしてノカノワの立ち位置もあわせて紹介します。
主な農法とその特徴
自然栽培
-
土の本来の力と植物の生命力を引き出すことを重視
-
肥料や農薬を使わず、必要最小限の人為的管理で育てる
-
耕すかどうかや草の管理方法は農家さんによって異なる
【代表的な実践者・団体】
木村秋則さん(青森県)、自然栽培全国普及会 など
自然農法
「自然農法」という名称は、歴史的に複数の系譜で用いられてきました。
代表的には次の二つに大別されます。
自然農法(福岡正信系)
- 四無主義(不耕起・無施肥・無農薬・無除草)を掲げる
- 「粘土団子による種まき」など独自の方法
- 農法というよりも自然哲学として国際的に知られる
【代表者】
福岡正信さん(愛媛県)
自然農法(岡田茂吉系)
- 世界救世教の創始者・岡田茂吉の思想を源流とする
- 肥料・農薬を使わないが、耕起は否定しない
- 宗教的背景を持ちながらも、研究・普及団体を通じて実践が広がっている
【代表的な団体】
MOA自然農法、秀明自然農法、自然農法国際研究開発センター(岐阜県)など
自然農
-
不耕起・無施肥・無農薬を基本とし、草や虫との共存を重視
-
作物・草・虫・土など、すべての生命と対話するように育てる
-
農法というより「生き方」として実践されることも多い
【代表者・団体】
川口由一さん(奈良県)、赤目自然農塾(三重県)など
協生農法
-
多様な植物を密植し、生態系の循環を活かす設計思想に基づく
-
肥料や農薬を使わず、人の手も最小限にとどめる
-
作物・草・虫が共生する環境を意図的につくり出す
【代表者】
大塚隆さん(三重県)など
菌ちゃん農法
-
土の中の微生物(菌)や小さな生き物の多様性を回復させることで、土本来の力を引き出す
-
化学肥料や農薬は使わず、草や落ち葉、生ごみなどの有機物を活用して土を育てる
-
自然を活かしながらも、有機物の投入や環境整備など積極的に人の手を加える工程が多い
【代表者・団体】
吉田俊道さん(長崎県)、菌ちゃんふぁーむ など
農法ごとの比較表
ここまで紹介してきた5つの農法はいずれも、肥料や農薬を使わないという共通点があります。
ただし、耕すかどうか、草や虫をどのように扱うか、自然との関わりをどの程度人が調整するかといった点は、それぞれの農法によって大きく異なります。
整理すると次のようになります。
| 農法名 | 耕すか | 草や虫との関わり | 特徴 | 主な実践者・団体 |
|---|---|---|---|---|
| 自然栽培 | 条件により異なる | 共存しつつ管理も行う | 土と植物の力を引き出す | 木村秋則さん(青森県)、自然栽培全国普及会 |
| 自然農法(福岡正信系) | 不耕起 | 完全共存 | 四無主義を掲げ、思想性が強い | 福岡正信さん(愛媛県) |
| 自然農法(岡田茂吉系) | 条件により異なる | 共存重視 | 宗教的背景を持ち、研究・普及も行う | MOA自然農法、秀明自然農法、自然農法国際研究開発センター(岐阜県) |
| 自然農 | 不耕起 | 完全共存 | 命と向き合う「生き方」としての農 | 川口由一さん(奈良県)、赤目自然農塾(三重県) |
| 協生農法 | 不耕起傾向 | 完全共存 | 生態系全体を設計して共生環境をつくる | 大塚隆さん(三重県) |
| 菌ちゃん農法 | 条件により異なる | 共存しつつ管理も行う | 微生物の多様性を活かし積極的に人が関わる | 吉田俊道さん(長崎県)、菌ちゃんふぁーむ |
※有機農法(有機JAS)も自然に寄り添う農法のひとつですが、基準の範囲内で一部の農薬の使用が認められています。そのため、この記事では「農薬・化学肥料を使わない栽培方法」に絞って紹介しています。
まとめ:農法名にとらわれない
ここで紹介した農法はいずれも、農薬や化学肥料を使わないことを基本としていますが、全国で統一された定義や基準があるわけではありません。
同じ名称でも、実際の内容や考え方は土地や人、環境によって異なります。
共通しているのは、自然の力を信じ、作物や土と向き合いながら育てていく姿勢です。
どの農法が正解ということではなく、その土地や人、作物に合わせて工夫を重ねながら、自然とともに育てる営みが、今も各地で続けられています。
ノカノワの立ち位置
ノカノワは、特定の農法だけを推奨したり、優劣をつけることはしません。
私たちが大切にしているのは、名前ではなく、その農家さんが「どのような環境で」「どのような考えを持って」「どのような農業」をしているのかという点です。
農薬や化学肥料を使わない理由は農家さんによってさまざまです。
環境を守るため、安心できる食べ物をつくるため、次の世代に命をつなぐため──
その背景には、その土地の気候や土質といった環境条件、そして農家さんが大切にしている思いや価値観があります。
そうした理由や背景を、正確でわかりやすい言葉で伝えることが、ノカノワの役割です。
農法名だけでは伝わらない現場での工夫や自然との向き合い方、そして農家さんの思いなどを紹介することで、互いの理解が深まり、新たなつながりが生まれると考えています。
補足
ノカノワでは、農薬や化学肥料に頼らない農法をまとめて「自然栽培」ということがありますが、これは、一般的に広く知られ、自然に寄り添う栽培というイメージを持ちやすいという理由からであり、特定の農法を指しているわけではありません。
