「農薬や化学肥料に頼らない」という言葉を選んだ理由
ノカノワではこれまで、肥料や農薬を使わない農法について紹介する際に、「肥料や農薬に頼らない」という言葉を用いてきました。
ですが、農家さんに取材を重ねる中で、「肥料」や「農薬」といった言葉が、人によってとらえ方の異なる言葉であることに気づくようになりました。
そこで、現在ノカノワでは、「農薬や化学肥料に頼らない」という言葉を使うようにしています。
この記事では、その言葉に込めた意味と、言葉を選び直すに至った背景をお伝えします。
肥料や農薬には、はっきりとした線引きができない
畑で実践されている営みは、「肥料を使っている」か「使っていない」か、「農薬を使っている」か「使っていない」かといった、単純な二択では語れないものが多くあります。
たとえば、畑に鶏を放し飼いにしている農家さんがいます。
鶏は草をついばみ、自由に歩き回り、糞を落とし、それがやがて土に還っていきます。
あるいは、山に近い畑では、鹿やうさぎ、野鳥が訪れ、同じように自然の中で排泄したものが土に残ります。
こうした営みは、農家さんが「肥料を与えた」わけではありません。
ですが、結果として土に栄養が加わっていることも確かです。
また、緑肥や米ぬかなどの自然素材を活用している方もいます。
これらは、化学的に合成された肥料とは異なりますが、「肥料ではない」と言い切れるものでもありません。
農薬についても、状況は似ています。
多くの人は「農薬=化学薬品」と考えがちですが、実際には食酢や重曹といった自然由来の成分でも、農薬として登録されているものがあります(いわゆる「特定農薬」)。
たとえば、自然栽培の農家として有名な木村秋則さんも、病害虫への対応として食酢を使っています。
制度上は農薬に分類されますが、それを「農薬に依存している」と感じる人は少ないでしょう。
このように、現場の実践は、制度上の分類や一般的なイメージでは捉えきれないことがたくさんあります。
ノカノワが「言葉」を見直した理由
こうした現場の実態をふまえ、ノカノワでは「肥料」については化学肥料と明記することにしました。
一方で「農薬」には「化学」をつけていません。
一般的に「農薬=化学薬品」という理解が浸透していること、そして自然由来の農薬(特定農薬)の扱いについては、濃度や使い方によっては作物や周囲の生態系に影響を与える可能性があるなど議論があるため、余計な混乱を避けたいと考えたからです。
ノカノワが大切にしているのは、「一切使わない」というゼロの姿勢ではなく、農薬や肥料に依存せず、自然の力をできる限り尊重して栽培していく姿勢です。
そうした背景をふまえて、表現を見直すことにしました。
まとめ
「農薬や化学肥料に頼らない」という表現は、ゼロを目指すことでも、誰かの農法を単純に評価することでもありません。
それは、自然の恵みやいのちの循環を尊重し、できる限りそれに寄り添いながら農を営む姿勢を示す言葉です。
農家さん一人ひとりの畑には、それぞれの工夫や環境に応じた選択があります。
ノカノワはこれからもその多様さを大切にし、制度やイメージにとらわれすぎず、現場のリアルをていねいに、誠実に伝えていきたいと考えています。
