農薬や化学肥料で土地はどう変わる?痩せた土を再生するための考え方
畑を見たとき、皆さんはどんな状態を“いい土”だと感じますか?
草が少なく、きれいに整った畑を思い浮かべる方が多いかもしれません。
けれど、農薬や化学肥料に頼らない農法では、見た目のきれいさよりも、土の中のいのちが大切にされています。
実は、農薬や化学肥料を使い続けることで、一見きれいでも、微生物が減り、草も根付かなくなることがあります。
見た目ではわからないかもしれませんが、少しずつ土の力が落ちていくのです。
今回は、農薬や化学肥料の影響で土地が痩せていく仕組みと、そこから再び生命の循環を取り戻すための方法について紹介します。
土が痩せるとは
農薬や化学肥料に頼らない農法では、土の中の微生物や草のはたらきによって作物を育てます。
そのため、土が健康であることが何より大切です。
しかし、長い年月にわたって化学肥料や農薬を使い続けると、次のような変化が起こります。
土が硬くなり、水がしみこまなくなる
肥料で微生物のバランスが崩れると、有機物の分解が進まず、団粒構造(ふかふかの土の粒)が壊れてしまいます。
その結果、雨が染み込まず、表面を流れてしまうようになります。
微生物が減り、有機物が循環しなくなる
農薬や土壌改良剤の影響で、目に見えない土の中の生き物たちが減っていきます。
微生物の活動が止まると、土が呼吸できなくなり、作物の根も十分に張れなくなります。
草が育たない、同じ草ばかり生える
草は土の健康を映すバロメーターです。
さまざまな草が混ざって育つのは、土が元気な証拠。
逆に、カヤやススキのような強い草だけが生える畑は、多様性が失われた状態といえます。
土を再生させるには
痩せた土地を元の状態に戻すには、時間と手間がかかります。
すぐに作物を植えず、草の力を借りながら少しずつ回復させるのが基本です。
草を育てて土を休ませる
クリムゾンクローバーやレンゲなどの緑肥をまくことで、根が土をほぐし、微生物のすみかを増やします。
刈った草をそのまま敷く
刈った草を畑に敷く「敷草(しきぐさ)」は、土を直射日光や乾燥から守り、草の根や微生物が活動しやすい環境をつくります。
耕さずに見守る
耕さずに表面を覆うことで、自然のバランスを乱さず、ゆっくりと再生を促します。
草が生え、虫が動き、微生物が戻ってくるまで、少しずつ生命の循環を取り戻していくことが大切です。
堆肥を活かして土の回復を早める
自然の力だけに任せると、土が元気を取り戻すまでに何年もかかることがあります。
そこで、人が少し手を貸して土の中の循環を助ける方法として、堆肥を加えることがあります。
堆肥とは、草や落ち葉、もみ殻、米ぬか、家畜のふんなどの有機物を微生物の力で発酵・分解させたものです。
すでに分解が進んでいるため、土の中で酸素を奪うことが少なく、これらを土に混ぜたり、表面に敷いたりすることで、微生物の“エサ”や“すみか”が増え、分解のサイクルが再び動き出します。
自然に任せるだけでなく、自然の仕組みを助けるために人が関わる。
その姿勢こそ、土地を再生させるうえで現実的で持続的な方法です。
堆肥を使うときのポイント
堆肥は完熟しているかどうかが重要です。
未熟な堆肥(発酵が不十分な状態)はアンモニアや発酵熱を発し、根を傷めたり、かえって微生物を減らしてしまうことがあります。
一方、しっかり発酵させた完熟堆肥であれば、微生物を呼び戻すきっかけとなり、土の団粒構造をつくる素材として働きます。
| 種類 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| 鶏糞 | 窒素が多く、発酵すれば即効性がある | 未熟だとアンモニア臭が強く、根を傷めやすい |
| 牛糞 | 成分が穏やかで有機物量が多い | 水分が多く、腐敗しやすいので十分に発酵させる |
| 馬糞 | 繊維質が多く、通気性を高めやすい | 発酵に時間がかかるが、完熟すれば理想的 |
| 植物性堆肥 | 草や落ち葉などを発酵させたもの | 扱いやすく、長期的に土を豊かにする |
堆肥による土の回復スピードの違い
土の状態や気候によって最適な量や時期は異なりますが、堆肥を適切に取り入れることで、多くの場合、微生物の活動が活発になり、土の回復が早まります。
微生物が活発になり、団粒構造が再生しやすくなるため、水はけや通気性、保水性が整い、草や作物が育ちやすい環境に変わっていきます。
| 土の状態 | 自然の力のみ | 堆肥を入れた場合 |
|---|---|---|
| 微生物がまだ残っている | 約1〜2年 | 6か月〜1年程度 |
| 長年農薬や化学肥料を使用 | 3〜5年以上 | 1〜3年程度 |
| 土が固く、草も育たない | 5年以上 | 2〜4年程度 |
※あくまで目安です。気候や土質、堆肥の種類などによって大きく変わります。
見えない依存構造
もうひとつ考えておきたいのは、農薬や化学肥料の原料の多くが海外から輸入されているということです。
もし、国際情勢の変化や物流の混乱などでそれらが手に入らなくなった場合、慣行栽培の畑では、すぐに作物を育てることが難しくなります。
長年の使用によって、肥料や薬剤がなければ作物が育ちにくい土になっているためです。
つまり、外部からの資材供給が途絶えれば、畑そのものが機能しなくなる可能性があります。
さらに、多くのタネ(種子)も輸入に頼っているのが現実です。
F1品種(交配種)や海外企業が権利を持つ種子が多く、自家採種や地域循環によってまかなえる作物は限られています。
そして見落とされがちなのが、家畜の飼料(えさ)です。
牛や豚、鶏が食べるトウモロコシや大豆かすの多くも海外からの輸入で、
国産の肉や卵、乳製品であっても、その生産を支えているのは外国の穀物です。
農薬、肥料、タネ、飼料。
この4つはいずれも海外依存度が高く、どれか一つが止まっても今の農業は大きな影響を受けます。
そのため、土の力を取り戻し、地域で循環できる農のしくみを築くことが、将来の食を守る上でも欠かせない視点といえます。
おわりに
肥料や農薬によって作物を育てやすくなった一方で、土が痩せてしまうという現実もあります。
さらに、それらの多くが輸入に頼っていることを考えると、“資材がなくても育つ土”を取り戻すことは、これからの農業にとって欠かせない課題です。
草が根を張り、微生物が動き始める。
その小さな変化が積み重なって、数年後にはまた命のめぐる畑へと戻っていきます。
農薬や化学肥料に頼らない農法は、「育てる」よりも「整える」農。
人が手を加えすぎず、自然のリズムを取り戻すことこそが、本当の再生だといえます。
目の前の畑を整えることは、同時に地域の食の循環を取り戻すことにもつながります。
こうした考え方は、ノカノワで紹介している多くの農家さんの畑づくりにも通じています。
